本の紹介
No | 記載年月日 | 書名 | 著者 |
No1 | 2023/5/10 | 統合失調症薬物ガイドライン2022 | 日本精神神経薬理学会 |
No1
しばらくのあいだ、2022年6月に発行された ” 統合失調症薬物ガイドライン2022 ” 、日本神経精神薬理学会、日本臨床精神神経薬理学会編集、について紹介します. 筆者は精神医療の専門家ではありません.誰でもが読めるように発行されたこの書籍を一読者として読んでいます.文中のCQはガイドライン中の番号ではありません.このホームページに書いた順番です.本の中では臨床質問(CQ)は全部で36項目あります.気になった一部のCQについて書きます.CQの番号はテキストどおりではなく、このサイト内ででの整理上の番号です。説明は、 CQ:クリニカルクェスチョン, A : 回答, 解説と感想:本文の解説と筆者の個人的見解. の3項目に分けてあります.
2024/4/19記 緊急避妊薬(アフターピル)の話し
以前、妊娠、授乳中の服薬について紹介しました.服薬を中止することは母児に危険があり担当医に相談しながら継続することです.テキストには補遺(CQ7-4)として、偶発的な妊娠にさらされやすいことが懸念されています.例えばレイプや避妊をせずパートナーとの性交渉をしてしまった時などです.このことは、疾患の有無にかかわらず女性であればだれでも持つリスクです.今回は、緊急避妊薬を受け取るまでを調べました.
1.避妊には性交渉後72時間以内に緊急避妊薬であるノルレボ錠1.5mg1錠を内服します.
2.現在わが国では、処方箋なしで薬局で購入できるよう準備中ですが長野県内に3か所です.(信濃毎日新聞2024/1/17調べ)
3.産婦人科クリニック受診.オンライン診療、対面診療どちらでもOK.処方箋発行してもらい薬局で受け取り内服する.
以上が流れです.ピルの薬局での試験販売は2023年11月に始まっており、広がってゆくことを待つしかありません.当分は受診することが早く確実な方法です.県内で受診処方箋発行の可能な病院は厚生労働省のホームページで調べられます.
「厚生労働省緊急避妊に関わる取り組みについて」医療機関一覧
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000186912_00002.html
時間外、休日の診療は地域の当番表で調べられます.
例えば「松本市の月別時間外診療の当番医表」から産婦人科を選択
https://www.matsu-med.or.jp/firstaid/monthlist.php
2023/8/27記 今回は精神疾患治療の終了について考えている医療的な動きを探しました
薬を減らしたり、止めることが出来ればどんなに良いかと思うことは、医師はじめ当事者、家族とも同じです。統合失調症については、原則としては、抗精神薬の中止を奨められてはいませんが、わずかずつ検討が始まっています。今回は二つの報告を紹介します。①「抗精神病薬の中止・休薬のエッセンスと最新のエビデンス」2022年、の記事です。’統合失調症薬物ガイドライン2022’ により薬を飲み続けることを推奨することは基本にしつつ、国外の二つを紹介してある。一つは20年間の観察の結果、薬を飲まない群からの再発や死亡の率が高いとの報告と、対して薬を飲まない群で全般的機能が良好であったとの報告をあげている。比較の対象要素が、再発率と全般機能と異なっているので判断に注意が必要である。文献の筆者は次の様な感想をのべている。統合失調症の初回治療開始から一定時期、およそ8年、に症例ごとに投薬の必要性と長期予後を判断することは必要ではないか。 ②「統合失調症を持つ当事者と治療の終了について話し合う」2022年、を紹介。文献の筆者自身は、投薬中止には躊躇があり中止した経験は無いと前置きしている。参考にしたいくつかの報告では再発を理由として中止を推奨していない。その上で、治療の終結には前向きな思いを述べている。一つには、医療者と対話しながら治療を選択してゆく、shared decision making (SDM) は再発率を低下させ得ると期待が持てるので今後検討してゆくべきと考えている。また、当事者から治療の終結について相談されることは当然あることとし、その時には、危機状況の時の自己管理の準備が出来ているか、医療福祉サービスとつながり関係を継続できるか、に視点をおく。今後も発表される報告に注目しながら治療終結を否定するものでないと述べている。自己管理については、illness management and recovery (IMR), wellness recovery action plan (WRAP) をあげている。またSDMを考える時には医療者に対して十分に質問ができることが望まれ、質問促進パンフレット(精神科外来での共同意思決定支援ツール「質問促進パンフレット」 (https://decisionaid.tokyo)を紹介している。
https://decisionaid.tokyo :精神科外来での共同意思決定ツール「質問促進パンフレット」
2023/7/14記 急性期に開始した治療が有効で無い場合に、どのようにするか、2つの質問を載せました.
CQ 6 クリニカルクエッション : 急性期の統合失調症において抗精神病薬の効果が不充分な場合に切り替えと増量のどちらが適切か? A 回答: 抗精神薬を使用しても治療効果がみられない場合は充分量まで増やすべきである.また、もともと使用していた抗精神薬を他の抗精神薬に切り替えることにより精神症状に改善がもたらされることがある.以上から、増量するか、切り替えるかを行うことが望ましい. 解説と感想: 改善の効果が不充分な時には、充分量まで増量することも、薬を切り替えることも、選択して良い方法であると説明しています.使われる薬は単剤であることが基本です.単剤とは、先にCQ1で急性期に最初に使われる薬としてあげたものを、繰り返します.非定型抗精神病薬から選択するとして、オランザピン非、リスペリドン非.アリピプラゾール非、クエチアピン非 があげられています.途中ですが、抗精神病薬の話に中で、しばしば、定型抗精神病薬、非定型抗精神病薬という分類があるので、ごく簡単に説明します.定型抗精神薬は1950年代に発見、使用されるようになりました.強い効果を示したクロルプロマジン定他数種の薬を指します.非定型抗精神薬は、その後に、効果はほぼ同等であり、副作用が少ないように作られた薬と理解します.文中では定型抗精神病薬の名前に’定’、非定型抗精神病薬の名前に’非’を上付き文字でつけるようにします.戻りますが、増量すると効果がみられたいう報告例があげられています.オランザピン非 を内服中、症状の改善がみられず血中濃度が低かったため、有効な血中濃度になるように増量したら有効性がみられた、とのことです.読者としては、増量するにしても薬物について許容内にして欲しいと考えてしまいます.次に、切り替えについて取り上げられた報告です.リスペリドン非(標準維持量1日2~6mg)で効果が不充分であるがそのまま継続した群と、オランザピン非(標準維持量1日10~20mg)に切り替えた群に切り替えた群を10週間の経過を比較したところ、オランザピン非に切り替えた群では症状に改善が見られたとの報告です.
CQ 5 クリニカルクエスション: 急性期の統合失調症で抗精神病薬の効果が不充分な場合に.抗精神病薬単剤治療と抗精神病薬の併用治療とどちらが適切か. A 回答: 有効性と安全性を考慮すると、急性期に単剤で効果が不充分な場合、抗精神病薬を追加併用するよりも、単剤治療をすることを弱く推奨する. 解説と感想: まず、弱く推奨する?とは、ですが、「単剤使用が本来あるべき治療であるが、ときには結果がはずれ、併用も必要かもしれない」と解釈しておきます.本題の、急性期治療で薬が効かないとき、他の抗精神薬を加えるのではなくて、一剤で治療することを弱く奨めるという答えです.根拠は、「抗精神病薬を追加併用しても、*精神症状の全般に改善すること、有害事象などで治療を中断せざるを得ないこと、において単剤治療と併用治療で違いがみられなかった」.すこし解りにくい表現ですが、併用による治療が効く場合もある、と解釈しますが、原則は1剤での治療と考えておきます.急性期統合失調症では、抗精神病薬単剤治療の効果が全くまたは部分反応しか得られない状況は一定の割合で認められる.その際、日常診療では、抗精神病薬の併用が時に認められています.このCQの中では、併用する時の薬名についてはあげられていません.次のCQ6も併せ初期の治療で改善が思わしくない時には、将来、治療抵抗性統合失調症として、特別な治療を受けるかが検討されるようです.その時に使われるクロザピン非という薬が併用薬として国外文献からの引用があります.日本では使用基準が厳しく、このCQでは併用薬として説明がありません.薬の名まえについてまた追加します.向精神病薬という言いかたも聞きます.これは中枢神経系に作用し,精神機能に影響を及ぼす薬総称を指すとなっています.抗精神病薬・抗不安薬・抗鬱薬、などの精神治療薬のほか,抗てんかん薬、睡眠薬、覚醒剤・幻覚剤なども含みます.
2023/6/2記 「統合失調症薬物治療ガイドライン2020」 妊娠出産に関するCQです. CQ 4 クリニカルクエッション : 妊娠中の統合失調症に抗精神病薬は有用か? A 回答 : 妊娠中の抗精神病薬の治療は、再発と入院を減らすと考えられる.本人の有害事象と新生児不適応症症候群は増加する可能性があるとはいえ、一般に対症療法のみで治癒することが多いものであり、胎児の有害事象のリスクの増加は認められず、児の神経発達の遅れのリスクも認められないため、抗精神薬の治療を行うことが望ましい. CQ 3 クリニカルクエッション: 産後(授乳期間を含む)の統合失調症の女性に抗精神病薬は有用か. A 回答 : 産後(授乳期間を含む)の統合失調症の女性に抗精神病薬の治療は再発と入院を減らすと考えられる.抗精神病薬を服用しながら母乳を与えた場合でも児への影響が起こる可能性は低いものと考えられる.そのため、産後、授乳中の女性が治療を続けることが望ましい. 解説と感想: この2つのCQは妊娠と出産に関係する問題で一緒に考えます.妊娠中、授乳中は児への影響を心配して、内服に迷った末、中止する患者さんも出るようです.今回のガイドライン作成にあたり、一人の女性患者さんがこの項目を設けてほしいと希望して、記載が実現したと聞きました.妊娠、出産は病気を持たない人にも、持つ人にも不安で一杯の期間です.特に、薬を飲まなくてはならない妊婦にとって不安はひとしおです.手元の文献では、妊娠中、抗精神薬の内服を中止した10名のうち9名が再発したと報告されています.症状によっては母体胎児ともに危険を及ぼします.内服を続けながら穏やかに妊娠期間を過ごすことが奨められるのではないでしょうか.薬を続ける必要のある場合心配なことは児への影響です.ガイドラインの解説では、参考とする研究論文や症例報告が少ないことの悩みに触れながらも、ていねいに説明してあります.新生児への影響として、先天奇形については妊娠初期に抗精神薬を内服していても奇形の発生はあると言えない.新生児適応症候群は、薬剤が胎盤を通過して胎児の組織に影響を及ぼし、一過性に緊張低下、振戦、易刺激性、けいれん、などの症状を起こす状態です.この症状の発現は、多剤併用ではリスクあるかもしれず、単剤では発症はみられず、また症状は治療により治癒できる、とされています.母体では抗精神病薬曝露による妊娠糖尿病合併の増加は懸念されるが、統合失調症に限った研究はなかった.第二世代薬では合併発生はなかった、とされます.今後、症例報告、研究は増えてゆくはずですので、安心して妊娠出産に臨めるよう見守りたいです.
2023/5/23記 今回は、「安定・維持期の統合失調症治療」という章からのCQを取り上げます. CQ 2 クリニカルクエスション:安定した統合失調症に抗精神薬の中止は推奨できるか. A 回答: 有効性と安全性を考慮すると、安定した統合失調症に抗精神病薬を中止せず継続することを強く勧める. 解説と感想: 統合失調症についての、家族会学習用のテキスト、一般むけの説明書などでは、厳しいといえるほどの調子で薬をやめないことを基本としています.ガイドラインンでは、文献調査から、内服を継続した場合と比べて、中止した場合は再発、再入院が有意に増加していると説明してあります.薬の減量についても、安定期にあれば、その抗精神薬を減量せずに続けることも推奨されています.当面.内服を継続すること以外の選択肢はありません.症状に応じて、薬を減量したり.休薬したり、中止できたら、もっと自由に診療が出来るのではないかと、医師も患者も同じ願いを持っているはずです.実際に、自己の判断で内服をしていない患者さんを周囲で見聞きすることは少なくありません.薬を止めないことが正論であるとされる現状では、正面から取り組みにくいですが、薬の中止や治療の終了を述べた文献も出始めており検討を続けます.単に薬にこだわるのではなく、精神障害リハビリテーションからの支援も必須です. CQ 1 統合失調症になったら、最初に使う抗精神薬は何か. A 回答: 1剤を使う.選ばれる薬は非定型抗精神病薬から、オランザピン、リスペリドン.アリピプラゾール、クエチアピン などがあげられている. 解説と感想: 初回エピソード精神病は、幻覚、妄想、興奮、混迷、緊張病症状を呈して、まだ治療の対応がされておらず、混迷も強いと思われる.したがって、治療には複数の薬が必要であったり、定型抗精神薬が必要な場合もある.特に精神科救急医療の現場では患者の生命を救う目的で強い鎮静が必要とされる.また症状発現初期には統合失調症様症状の他の疾患を鑑別しその後の経過で診断がされる.薬物治療の方針は診断確定後に検討されるはずである.初回エピソード症状が落ち着いた後、1剤で(しばらくは2剤も許容するとして)、なお、非定型抗精神薬から選択された薬で、治療が続けられるかが第一歩と考える. 2023/3/24 記 「統合失調症薬物治療ガイドライン2020」日本神経精神薬理学会・日本臨床精神神経薬理学会編.2022年6月発行(以下ガイドライン2020と略).について述べる記事を目にすることが増えています.3月25から26日開催の第17回日本統合失調症学会でシンポジウムのテーマ「診療ガイドラインからみた薬物治療最前線」としてとりあげられています.このガイドラインの内容から、薬物治療について、家族と支援者として知りたいことを拾い出してゆく予定です.その前に、引用したい記述があります(註参考).以下:♣「ガイドライン2020」は薬物治療が必要と考えられる当事者の方において、どのような薬物治療が有効かについての指針であり、統合失調症治療全体についてのガイドラインではありません.♣医療者が間違いやすいのは治療、特に薬物療法を行うことは暗黙の前提で、どの治療薬を選択するかについて患者さんと話し合うことが、治療方針の決定だと考えてしまうことです.♣また、共同意思決定の場面でも「いろいろなお薬の作用や副作用を患者さんと医師で話し合って薬を選択する」という意味で使ってしまっていることがあります.♣薬の使用は選択肢の一つであり、様々な選択肢を提示するために、医療従事者の多職種連携や地域連携が必要です.以上を踏まえてガイドライン2022について抜き書きしてゆきます. 註参考:統合失調症の最新情報ー治療方針の決め方ー/統合失調症リカバリー支援ガイドー当事者・家族・専門職それぞれの主体的人生のための共同創造 以下の検索語でインターネットから全文が入手できます.編者は群馬大学神経精神医学教室、福田氏です. 統合失調症リカバリー支援ガイド -当事者・家族・専門職それぞれの主体的人生のための共同創造 第 1.1 版 2022/12/27 記 2022年6月に発行された ” 統合失調症薬物ガイドライン2022 ” 、日本神経精神薬理学会、日本臨床精神神経薬理学会編集について紹介しました.2017年に前版が出ていますので今後数年はこのガイドラインが、医師、本人、家族、支援者の参考になると思います.本としては、医学書院から4180 円で出ています. 日本神経精神薬理学会 ホームページ: 2022年5月20日の公開記事、【「統合失調症薬物治療ガイドライン2022」を公開しました 】で全文をみることができます. https://www.jsnp-org.jp/index.html